いい人との出会い、そんなネットワークがどんどん繋がれば、もっと生きやすい社会になれるはず。 そんなご縁づくりを目指して、生き方も笑顔もキラリと輝く人「きらりの人」を紹介していきます。
Profile
「NPO法人つどい場さくらちゃん」理事長 丸尾 多重子さん
大阪市生まれ。2004年3月兵庫県西宮市に〈つどい場さくらちゃん〉設立。介護者や介護従事者が交流する、地域になくてはならないつどいの場として今年で20周年を迎える。介護に関する情報や知識、介護・医療従事者とのつながり、そして関西人ならではの「オチをつけたい」という面白さに助けられた介護者は数知れず。つどい場の運営のほか、講演活動も積極的に行っている。
「NPO法人 つどい場さくらちゃん」
https://www.facebook.com/tsudoibasakurachan
前編では─
「NPO法人つどい場さくらちゃん」を運営する丸尾多重子さん。通称「まるちゃん」。介護者を支え続けて20年、パワーの塊のようなまるちゃんが、慢性硬膜下血腫で入院・手術を経験し、一時は介護が必要な状態だったと聞き、ケアネーネ編集部は9年ぶりにつどい場さくらちゃんへ駆けつけました。
手術にいたるまでのいきさつやまるちゃん救出劇を語ってくれたのは、「フォーエバーレディース 西宮過激団」の仲間、有岡陽子さん、西村早苗さん、戸牧一枝さん。まるちゃんに突然訪れた要介護生活を経て老いや死とどう向き合っていくのか、お話の続きをお楽しみください。
人生100年時代と認知症はセットで考える。
慢性硬膜下血腫の診断が下りるまでの間、異常な眠たさを感じていたというまるちゃん。足が重だるく、言葉も出にくくなっていたそうです。「その症状を聞くと、ほとんどの医者は“認知症ですね”って言わはる。昔は“ボケてはるわ”で終わっていたものが、今は“認知症”という病気になるんですよ」
たしかに、世間では認知症は高齢者の病として重く受け止められ、むやみに恐れている人が多いもの。しかしまるちゃんは、認知症は怖いものでも悪いものでもない、長生きすることと認知症はセットだと力説します。
「人生50年だったらボケる前に死んでる。人生100年時代にね、100歳になってボケてなかったらつらいよ。たくさんの旅立ち経験して、友だちも家族もいなくなってね、頭だけしっかりしてたらつらいって」
認知症になっても、ちゃんと感情はあるし、おいしいもまずいも分かっている。家族にはつらいことでも、本人にとっては過去の悲しい出来事を忘れられた方が楽に生きていけるのかもしれません。
「絶対、認知症にはなりたくない」と話す高齢の男性に、「ひとつだけ認知症にならない方法がある。それは早く死ぬこと」と答えたというまるちゃん。認知症を怖がるのではなく、正しく受け入れる。長生きすれば認知症になることを想定して生きていくことも大切だと思いました。
幸せな最期の裏には、悔いのない介護があった。
9年前に旅立った有岡さんのお母さん「富子さん」も認知症でした。脳梗塞を患ってから認知症状が出始め、99歳で亡くなるまでの15年間ひとりで介護してきた有岡さん。愛する母の変わりゆく姿に苦しみながら介護していた時に出会ったのがつどい場さくらちゃんでした。
まるちゃんに支えられ、母娘の絆を大切にしながら過ごした介護生活。亡くなる3年前には、在宅主治医から最期が近いと宣言され、デイサービスもやめ週1回さくらちゃんを利用しながら24時間富子さんを介護することに。
ところが、旅立ちが近いどころか、よく食べ、よく眠るようになったそう。まるちゃんたちと居酒屋やレストランでおいしい食事とお酒を楽しむことも多かったそうです。亡くなる1週間前も、中華料理を食べてビールを一口。亡くなったその日も、すき焼きを一口食べ、最後の最後まで自分の口から食べて、愛する人に囲まれて眠るように旅立たれました。
9年前、さくらちゃんの食事や外食を楽しむ富子さん
「お母ちゃんにさみしい思いをさせず逝かせてあげられたから悔いはないです。 それで人生の目的は果たせたと思ってるからね」
いい在宅主治医や訪問看護師、ケアマネに出会い、まるちゃんや仲間に支えられ介護を全うした有岡さん。
「お母ちゃん、私を心配して必死で生きてたと思うんです。生き切ったという感じ。でも、死ぬって悪いことではないなと思いました」
医師を盲信せず、介護者が賢くなることが大切。
誰だって死ぬのは仕方がない。でも、できるだけ苦しくない死に方をしたいとまるちゃん。そのためには、いい医師や看護師と日頃からつながっておくことが大事なのだそうです。
「近所にいい医者がいなかったら育てなあかん。ヤブも育てたらタケノコになるでしょ(笑)」
まるちゃんの考える「いい医者」とは、患者であるその人自身を診ることができる医師。
「昔のお医者さんは聴診器で手と目で診てたけど、今の医者はデータばっかりでしょ。人を診ない医者は信用できへん」
検査結果の数値を見て病名を決め、薬をどんどん出す。必要だと思って出した薬でも、患者の生活を見てないから経過がわからない。薬を飲んでどんな変化があったのか、医師に伝える家族の役割は重要だとまるちゃんは言います。
「国民が医者を特別な存在にしてきた。言うことはなんでも聞きますって、医者の言いなりになってはダメ。薬にも敏感になることが大事よ」
若年性アルツハイマー型認知症だった戸牧さんの夫は、抗認知症薬を投与されてから徘徊が始まりました。戸牧さんはさくらちゃんに通い始めてから、「学びタイ」に参加しアルツハイマーについて勉強。入院中に薬の影響からか会話もできなくなった夫を見て、薬の量が多すぎるのではないかと医師に申し出て量を減らしてもらったそうです。
その後、夫婦でお出かけタイにも参加できるほど回復されました。「介護者が賢くならないと、いい介護はできない」とつねづね語っているまるちゃん。そのためには情報が必要で、さくらちゃんのような人と人、人と情報をつなぐ場は重要だと思いました。
人生の終わりは自分で決める。
家族は覚悟を持って受け入れる。
「ここでよく死ぬ時のこと話すんです。よく考えたら、これまで生きてきた時間より、残された時間の方がずっと短いねって」と有岡さん。まるちゃんも有岡さんも独身の一人暮らし。終末期や最期をどう迎えるかは、書き留めてある通りにしてほしいそうです。子どもがいる戸牧さんは、元気なうちは一人で暮らしたい、子どもに介護してもらうつもりはなく、最期は書き残した意思を尊重してほしいと言いますが…。
「延命せんといてって言ってても、土壇場になったら子どもがどうするかわからんやん」と有岡さん。自分の責任で命を終わらせるとなったら、延命してほしいと言うかもしれない…お母さんを見送った時の、娘としての本音がこぼれます。
「頭で理解してもあかん。心に落としとかんと最後に判断迷うよ」
どうやって死を迎えるのか、本人だけではなく家族にも覚悟が必要です。
「一人で住んでたら何が起こってもしゃあないと思ってます。認知症になったら自分の判断を超えるし、腹くくっとかなあかん。でも、施設には入っても、精神科病院だけはやめようね。死亡退院ってホントにあるらしいし!」
死亡退院とは
昨年、NHKのドキュメンタリー番組で話題となった「死亡退院」。精神科病院である八王子・滝山病院の看護師らによる入院患者への暴行・虐待はあまりにも衝撃的でした。東京都の調査によると、都内の精神科病院の死亡退院率は平均5.9%。しかし、滝山病院では64.3%と異常に高い数字でした。この病院が特別なのではなく、同様に事件として明るみに出た精神科病院は日本各地に存在しています。
頼り合うのではなく、支え合う仲間がいる。
「自分の人生だから、人にゆだねるのだけはやめようと思ってる。人に頼るのではなくて、運命に頼るわ」
歳をとるほど自己決定することが重要だと考えている有岡さん。まるちゃんたちフォーエバーレディースの仲間も、助け合っているけれど頼り合ってはいない。依存しているわけじゃないと言います。
しかし、3人でまるちゃんを浴槽から救出した、まさに裸の付き合い。有岡さんはまるちゃんが手術した時、介護が必要になっても施設には入れない、ここで自分で看ようと覚悟していたそうです。
「歳とって心と身体に一番悪いのは、“孤独“という“毒”」だと言うまるちゃんにとって、そして有岡さん、西村さん、戸牧さんにとっても、フォーエバーレディースはいざという時に支え合えるかけがえのない仲間です。
「お母ちゃんがつないでくれた縁やと思う。出会えただけで幸せ」「まるちゃん、ありがとう」
有岡さんのしみじみと語る姿が印象的でした。
介護者の悩み、苦しみを受け止め、おいしいご飯をつくり、さらに講演に飛び回り20年間走り続けてきたまるちゃん。これからは、これまで関わってきた若い人たちに、さくらちゃんの想いを受け継いだつどい場をつくってほしいと考えています。心とお腹を満たしてくれて、より良い介護のための情報とつながって、悩みもグチも聞いてくれる。そんな場所が近所にあれば、きっと心強いはず!
まるちゃん、皆さん、楽しくてためになるお話、ありがとうございました。
追記
この取材の後、毎年開催してきた勉強会「かいご楽会」のファイナルが開催されることが決まり、編集部も参加させていただきました。その様子も番外編として後日公開いたします。
まるちゃんのサイン本を、2名様にプレゼントいたします。
「まるちゃんの老いよボチボチかかってこい!」
監修:丸尾多重子
著:上村悦子
出版:クリエイツかもがわ
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