ケアネーネを運営するニック株式会社社長の石村が、今、気になる人と気になる話題を語り合うトークセッション。長年、介護業界に身を置く石村が注目しているのは、さまざまな課題を抱える介護の現在地か、福祉の行く末か!さて、どんな話が飛び出すのでしょう。
トークテーマ
万博共創チャレンジで拓く、「行きたい」を「あきらめない」未来とは。
第1回目のゲストは、関西イノベーションセンター MUIC Kansaiの村上弘祐さんと、東京トラベルパートナーズの栗原茂行さんです。
来年春に開幕する、大阪・関西万博の参加型プログラム「TEAM EXPO2025共創チャレンジ」で、ユニバーサルツーリズムプロジェクトに取り組むおふたりに、石村が迫ります!
TEAM EXPO2025共創チャレンジ
「TEAM EXPO2025共創チャレンジ」は、大阪・関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を実現するために、参加者自らが主体となって取り組むプログラム。企業や各種団体、自治体はもちろん個人でも参加でき、仲間とチームを組んで社会課題を見つけ、解決のためのチャレンジを行う。
LET’S EXPO
「行こう。あきらめていた人と。」をコンセプトに、高齢者や障がい者など万博に行きたくても行くことのできない人たちの参加をリアルとバーチャル両面で実現することを目指すユニバーサルツーリズムプロジェクト。関西イノベーションセンター、東京トラベルパートナーズ、住友電工の3社がチームを組み、「共創チャレンジ」に登録し活動を進めている。
事業を協働する中で同じ想いを持ち、
新たな社会課題の解決へチャレンジ。
今日は、「LET’S EXPO」のコンセプトや果たしたい役割、万博後の姿など、いろいろお聞きしたいと思っています。まずは、村上さんから自己紹介をお願いします。
関西イノベーションセンター MUIC Kansaiの村上です。
MUIC Kansaiは、大阪・関西万博を見据えて三菱UFJ銀行が設立した組織で、観光やインバウンドをテーマにさまざまな企業や団体と協働し、課題解決につながる事業の創出に取り組んでいます。
私は約2年前に着任したのですが、その前は三菱UFJ銀行で法人営業をしていました。180度違う畑で、まさかこんな仕事をするとは思わなかったですね。
バリバリの銀行マンだったんですね。
栗原さんとはMUICさんのご紹介で出会って、以前「介護のいいモノ教えまっせ」のコーナーにもご登場いただきましたが、あらためて自己紹介をお願いします。
東京トラベルパートナーズの栗原です。
当社は「旅介」というブランドで、なかなか旅行に行けない高齢者、障がい者に向けたサービスを提供していて、福祉車両を使ったリアルな旅と、バーチャル・オンラインの旅を扱っています。
MUICさんとは、どのような経緯でつながったのですか?
MUICさんも、コロナ禍でうちが始めたオンラインツアーのようなリモート観光プログラムを独自に取り組まれていました。1年やってみて、このサービスは旅行に行くのが難しい高齢者や障がい者に提供すべきじゃないかと、同じような事業をやっていた当社に声を掛けていただいたのが最初です。
銀行員が首にカメラさげてやっていたんですが、通信は途切れ途切れになるし、歩けばカメラは揺れるし。やっぱり自分たちだけでやるのは難しいと、同じ課題を持ってやられている企業をリサーチし、東京トラベルパートナーズさんにお声掛けしました。
TEAM EXPOの共創チャレンジには現在1750団体が登録していて、その中のひとつが「LET’S EXPO」というプロジェクトですよね。登録は、MUICさんが音頭を取られたんですか?
プロジェクトの運営主体はMUIC Kansai、共催が東京トラベルパートナーズ、住友電工となっていますが、発起人は栗原さんです。寝ながらアイデアが浮かんできたらしいですよ。
はじめは、オンラインのリモート観光を万博でもやりたい、高齢者に配信したいと思っていたんです。でもそれだけでは、実際に行きたいのに行けない人はどうすればいいのか、そうした観点も含めて考えていきました。もともと、共創チャレンジの登録ありきで始めたのではなく、こういう活動がしたいと万博の準備、開催運営を行う博覧会協会に話を持ち込んだら、共創チャレンジでやってほしいといわれ、登録することになったんです。
村上さんは、これまで高齢者、障がい者というところに接点はなかったんですよね?
はい、ありませんでした。このプロジェクトにかかわってから、高齢者・障がい者の存在がより目に留まるようになりましたし、自分でも調べるようになったんです。そうすると、高齢化は進んでいるのに、なぜ国は若い世代のために動いているんだろう?とか違和感がいろいろ出てきて…。問題意識がどんどん強くなって、今はどっぷりはまっていますね。
栗原さんから話を持ち掛けられた時はどう思いました?
「旅介」のプロジェクトも一緒にやってきましたし、そもそもMUIC Kansaiが万博をきっかけに関西から盛り上げていこうと立ち上がった組織なので、LET’S EXPOのコンセプトと私たちがめざすこととの共通点が多く、やりたいと思いましたね。
会場で安心して楽しみ、オンラインでもリアルに楽しむ。
LET’S EXPOの「行こう。あきらめていた人と」というテーマをどう具現化していくのか教えてください。
開幕前の段階では、昨年12月から全6回の予定でテーマセッションをやっています。あとは、ハンディキャップを持っている人が会場に行く時、車で行けるのか、駅は整備されているかなどの情報を発信していきます。
僕も2回テーマセッションに参加させていただきましたが、このセッションの意味や目的はどこにあるのですか?
第1回、2回のテーマセッションでは、介護・福祉の分野を盛り上げている若い経営者や、石村社長をはじめソリューションやサービスで業界を支える方々にご登壇いただきました。これは、介護・福祉業界にどんな方がいて、どう課題解決されているのかを参加者に知ってもらおうという目的なんです。さらに、参加者も一緒に課題を考えるセッションも用意して、そこで出た解決策は我々が博覧会協会へ持ち込み話し合っています。参加者に伝え、ともに考え、実行に移すイベントになっていると思います。
開幕してからは、会場内で車いすを押したり、視覚障がいの方に付き添ったりというサポートサービスを準備していて、そのボランティアも募っているところです。会場に行けない方には、オンラインツアーでのパビリオン配信や、博覧会協会やNTTが準備するバーチャル万博の体験サポートも考えています。
オンラインのサービスは介護施設に向けたものですか?
そうです。でも、パソコンやVRゴーグルを使ってバーチャルエキスポを楽しむって、施設のスタッフさんにはちょっとハードルが高いじゃないですか。そこを施設に行って補助するボランティアも集めて、全国に広げていきたいんですよ。勝手に思っていたんですが、ニックさんの営業所の方々にもお手伝いいただけたら盛り上がるんじゃないかって。自分たちだけのバーチャル空間が設定できるので、ニックさんのつながりのある介護施設さんが集まることもできますよ!
万博をきっかけに、誰もが旅をあきらめない世界を実現したい。
おふたりとも、熱い方ですよね。想いというか熱量を感じます。
MUICさんとしては、LET’S EXPOに何を期待していますか?
万博をもっとインクルーシブなものにしていくのはもちろんですが、もっと大きな視点でいえば、高齢者や障がい者、その家族が、観光や旅行をやる前からあきらめている、そのマインドを前向きにさせられるプロジェクトになってほしいと思っています。万博が終わった後もLET’S EXPOの活動が観光地やイベント会場などいろいろな所で活用されるように、仕組みとして定着させていきたいですね。
万博って、ひとつのきっかけなんですよね。
そうなんです。万博を機にいろいろなことをやろうと考えている人は多いと思っていて、栗原さんともよく話すんですけど、普通にやれば10年かかることも、万博をきっかけに多くの人がやろうという想いを持つことで、もしかすると半分の時間で実現するかもしれない。課題の解決がショートカットできる機会じゃないかと思っています。
栗原さんは今回のチャレンジの意義をどう考えていますか?
高齢者に限らずすべての人が旅行を楽しめる社会づくりを事業を通じてやろうとしているのですが、実際に広げていくのは大変で。そういう想いを持つ人も結構いるんですけど、ビジネス的に難しかったりしますし。そうした中で万博という世界的なイベントがあって、「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマを掲げている。今、日本が置かれている状況も考えると、この事業を広げるいいタイミングだと思っています。LET’S EXPOで誰もが旅行を楽しめる世界を描いて広がっていけば、10年後の日本はもっと良くなっているんじゃないかと思うんです。もしかすると、万博で1年で広がることもあるかもしれない。
以前栗原さんが、ほかの国が経験したことがない、超高齢化の日本が万博をやる意義を全世界に示すチャンスだとおっしゃっていたじゃないですか。
はい。日本ではついに高齢化率が間もなく30%を超えてきますが、今後アジア諸国でも30%を超える国が出てきます。ヨーロッパのいくつかの国でもこの水準になってくるでしょう。それならば、日本が世界に示せる最新事例、もしくは先に経験する苦労かもしれませんが、そこをポジティブに示せば、世界の人たちは日本人が思っている以上に注目するかもしれません。
万博側も、そうしたことをもっと発信すればいいんじゃないですか?
それが、その切り口で発信する人はあまり聞かないんですよ。これまで、月の石を展示したり、最新の技術やプロダクトを披露する場が万博だったけど、今は人々が驚くようなイノベーションはそうそうないじゃないですか。1周、2周回って、暮らし方やサービスのようなところに目を向け発信できたら、意外と注目されるような気がします。
東京オリンピックも経験しましたが、ミクロの視点で困っている人を見て、全体として支援するのは難しいですよね。世界的にハンディキャップを抱えた人たちの受け入れ態勢ができていないという課題を、LET’S EXPOで解決することは、大きな意義だと思います。
聞いている限り儲かる話でもなさそうですが(笑)。なぜ、そこまで熱くなれるんですか?
LET’S EXPOは会社がめざしているところと重なる部分が多いので、どちらにしても自分がやるべきことだと思っています。今は市場すらないですし、正直儲かりませんけどね(笑)。でも、多くの人に知って使ってもらって、万博後もイベントが開催されるたびにこのサービスを利用してもらえば、うちがマーケットリーダーになれるわけですから。今回一発勝負のつもりですが、マーケットができるといいなぁと思っています。
種をまく人ですね(笑)。
ここ3年くらい、種ばっかりまいています(笑)。
LET’S EXPOが、世の中を変えていく一歩に。
開幕まで1年を切りましたが、今のお気持ちは?
万博のコンセプトは、「未来社会の実験場」なんです。高齢者や障がい者があきらめなくていい社会をめざして、万博を実験場にする。そしてその成果をレガシーとして残し、より良い社会にしていけたらと思っています。言い方は悪いですが、実証実験の場として万博を使わせてもらいます!
仕事もLET’S EXPOも想いは一緒です。もっとこうすれば高齢者の社会参画が広がって経済も回るのにとか、日頃漠然と考えていたことをLET’S EXPOにうまく活かして、万博終了後に社会が変わっていけたら一番いいと思います。開幕まで時間がないですから、本当に必要な人にたちに届くように突っ走っていきたいですね。
村上さん、栗原さんが話されていたように、高齢化社会で日本が提示できること、あとはレガシーとしてどうやって今後の高齢化社会に対しプラスの要素に振り替えていけるかが非常に重要だと思います。「行けないからやめよう」とはなから思うと、世の中は変わっていかないですしね。私も、万博というひとつのイベントだけじゃなく、今後ハンディを持っている方が社会に出やすくなるような、そういう何か大きな改革の一端にかかわれたらいいなと思いながら応援しています。
では最後に、ケアネーネの読者の皆さんにメッセージをお願いします。
最近顧問になっていただいた、東北大学で脳の発達や加齢を研究している瀧先生によると、旅行に行くことは脳科学的にもすごくいい刺激になり認知症予防にもなるそうです。オンラインやバーチャルの配信で旅を体験することも刺激になります。旅行は健康にいいし、人生のスパイスになりますよ。
また、是非ボランティア登録、介護施設としてLET‘S EXPOへの参加をして頂き一緒にこのサービスを盛り上げてくれたらと考えております。
行くのをあきらめてしまっていた人が、LET’S EXPOがあるから行ってみようと思えるようになればいいですね。世の中にそういう方はたくさんいらっしゃるし、まず知ってもらうことが必要なので、読者のみなさんにもこのプロジェクトをより多くの方へ広めていただけると嬉しいです。
一般社団法人 関西イノベーションセンター MUIC Kansai
シニアマネージャー 村上弘祐さん
2022年10月、三菱UFJ銀行から、観光・インバウンドをテーマとした会員制のオープンイノベーション「MUIC Kansai」へ。東京トラベルパートナーズの「旅介TVTM」の本格的な事業化に携わる。「TEAM EXPO2025共創チャレンジ」でも栗原社長とタッグを組み、ユニバーサルツーリズムの新たな仕組みづくりに情熱を注いでいる。
東京トラベルパートナーズ株式会社
代表取締役 栗原茂行さん
2016年東京トラベルパートナーズ設立。以来、「旅介」ブランドで介護施設向けの介護旅行、オンラインツアーを手掛ける。2024年5月からMUIC Kansaiのサポートを受けサービスを拡充した「旅介TVTM」がスタート。根っからの旅好きで、身体が不自由になっても旅を楽しんでもらいたいという想いを「LET’S EXPO」に注ぎ込んでいる。
トークを終えて ケアネーネ編集部より
高齢者や障がいを持つ方々にとって、物理的にも心理的にもハードルが高い「万博」というイベント。LET’S EXPOは、まさに「行こう!」とあきらめていた人の背中を押してくれる、外出する最初の一歩を踏み出すきっかけをくれる取り組みだと感じました。そして、村上さんと栗原さんの、すべての人に旅の楽しさを届けたい、ネガティブな高齢化社会に観光・旅行の観点から光をあてたいという熱い思いが伝わってきました。
万博を契機に、人生を楽しむことをあきらめない社会をつくる。LET’S EXPOのめざす未来を実現するには、村上さん、栗原さんがつくる仕組みが社会に受け入れられ、広く浸透できるよう、当事者と普段接点のない人たちも意識を変えることが必要ですね。 歳をとるのも悪くない、そう思える日本になることを期待して、応援しています!