いのちの停車場

著者:南 杏子
幻冬舎
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《本を紹介する人》ケアネーネ編集部「おはぎ」

人生の目標は、ピンピンコロリ。
健康で長生きするために本気でダイエットをはじめたover50。
小さいことを気にするわりに、嫌なことは一晩寝たら忘れるタイプ。
大好きな推しの活躍を原動力に、今日も老いに立ち向かう!

「いのち」と向き合うことで自分らしい生き方を見つけていく人々の姿を描いた感動作。

在宅医療の現場を通して
命との向き合い方について考えるきっかけとなる一冊。

「命の選択。これに正解はあるのだろうか」

これが、本作を読み終えた直後の率直な感想だった。命と向き合うということについて、改めて深く考えさせられた。

『いのちの停車場』は、東京の救急救命センターで働いていた62歳の医師・白石咲和子が、故郷の金沢に戻り、在宅医療に携わる中で、さまざまな患者と出会いながら、自らの価値観や人生観を揺さぶられていく物語である。

これまで「命を救う」最前線に立ってきた咲和子が、「命と向き合う」場所へと身を置くことで、医師として、また一人の人間として、変化していく姿が丁寧に描かれている。

本作の主題は、「命との向き合い方」にある。

とはいえ、その描写は決して重苦しくなく、むしろ静かであたたかく、読む者の心にそっと寄り添うような優しさに満ちている。

著者・南杏子は医師として実際に在宅医療の現場に立った経験を持つ。そのため、登場人物たちのやりとりや心の揺れ、医療現場の空気感に確かなリアリティがあり、患者や家族、医療者それぞれの立場や思いが丁寧にすくい取られている。

老老介護、ターミナルケア、尊厳死など
医療現場が抱える問題やタブーを正面から描いている。

第一章「スケッチブックの道標」に登場するのは、パーキンソン病の86歳の妻を自宅で介護する老老介護の夫婦。経済的にも精神的も大変な彼らに寄り添う咲和子を通して、介護する人にも覚悟が必要なのだと痛感する。

第二章「フォワードの挑戦」では、頚椎損傷によって四肢麻痺となった40歳のIT企業社長が、先進医療に挑む姿を描いている。

第三章「ゴミ屋敷のオアシス」には、認知症の老女と介護に非協力的な娘が登場する。訪問看護の難しさと必要性、人と人との関係性を考えさせられる内容になっている。

第四章「プラレールの日々」では、末期進行がんを患う元高級官僚とその介護で心身ともに追い詰められていく妻の物語。「介護する側にも休息が必要である」というレスパイト・ケアの重要性を、在宅医療の現場から静かに訴えかけている。

個人的に最も心を揺さぶられたのは、末期がんを患う6歳の少女とその両親を描いた第五章「人魚の願い」。死を悟った少女の最後の願いは、あまりに健気で、涙なくしては読めなかった。「死を受け入れる」ということの意味について、深く考えさせられる章である。

そして、第六章「父の決心」では、主人公・咲和子は、治療法もなく、日々激しい痛みに襲われる病に侵された父から、「楽にさせてくれ」と積極的安楽死を求められる。
医師として、患者の死を後押しすることはできない。しかし、娘として、家族として、父の「死」と向き合うことで、咲和子はこれまでにない感情と葛藤を抱くようになる。
彼女は最後にどんな決断を下すのか。その結末は、ぜひ本書で確かめてほしい。

「人間の最期」をどう迎えるかという問いを、読者にも投げかけてくる。

都会の病院での「治す医療」から、地方の「支える医療」へと大きく舵を切った咲和子は、戸惑いや葛藤を抱えつつも、次第に目の前の患者と向き合い、その命に寄り添う覚悟を深めていく。咲和子の変化は、読者であるわたしたちにも、医療の在り方や人生の意味について立ち止まって考えるきっかけを与えてくれる。

本作には、生と死、愛と孤独、家族や他者との関わりといった、普遍的な人間のテーマが物語全体に流れており、読み進めるうちに、自らの人生観を見つめ直したくなる。

『いのちの停車場』は、誰もがいつか迎える「終着駅」を、恐れるのではなく、穏やかに、そして意味深く迎えようとするための一冊である。読み終えた後、自分自身や家族、大切な人の「いのち」に、もう少し丁寧に向き合いたいと自然に思えた。それこそが、この作品が持つ大きな力なのだと思う。

目次

プロローグ

第一章 スケッチブックの道標

第二章 フォワードの挑戦

第三章 ゴミ屋敷のオアシス

第四章 プラレールの日々

第五章 人魚の願い

第六章 父の決心

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